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名古屋地方裁判所 昭和32年(ワ)1950号 判決

原告 平山一郎

被告 愛知殖産株式会社

主文

原告の本位的並に予備的請求を各棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告会社の昭和三十二年九月二十二日の株主総会における別紙記載の決議が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、尚予備的請求として右決議を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、原告は被告会社の株主であるところ、被告会社は昭和三十二年九月二十二日の臨時株主総会において別紙記載の決議をなした。しかるに、右株主総会は訴外鈴木幸市が五千株同山岡光二が二千株の株主としてその少数株主権を行使して招集してこれに出席し議決権を行使して右決議に参加したものであるところ、右訴外人両名はともに未だ被告会社の株主ではない。即ち右鈴木幸市は株金の払込をなしておらず、その払込は丸井増三がこれをなしており且つ同人は架空人物にして議決権の行使は出来ず、右山岡光二は株金払込の事実はなく実際の株主は宇野清一であり宇野が山岡を仮装株主として処置したものである。仮に訴外鈴木幸市が株主であるとしても同人はその所有にかかる該株式を被告会社に譲渡したものであるから、いずれにせよ、右訴外鈴木幸市同山岡光二は被告会社の株主ではなく、従つて、右株主総会は招集権限のないものが招集し、株主でないものが決議に参加したものであるから、右総会の決議は無効である。よつてこれが無効確認を求めるため本訴請求に及ぶ。仮に右請求が認められないとしても右株主総会の招集通知書には決議事項として、第壱号議案営業報告、財産目録、貸借対照表を求むる件、第弐号議案其他附随する一切の決議事項と記載せられており、別紙記載の決議事項については、右招集通知書に決議事項として全然記載せられておらず予め株主に対し会議の目的たる事項として通知せられることなく突如総会に議案として提出せられ反対を押切り敢て右のように議決がなされたもので右決議は予め通知せざる事項につきなされた瑕疵ある決議としてあるから取消さるべきである。と述べ、証拠として甲第一乃至第五号証を提出し、証人大橋兵一郎の証言、原告本人訊問の結果を援用した。

被告は原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中原告が被告会社の株主であること、原告主張の日に原告主張の如き株主総会が開催せられ、別紙記載の決議がなされたことはそれを認めるがその余の点を否認する。右株主総会は名古屋地方裁判所昭和三十二年(ヒ)第六号株主総会招集許可申請事件につき同裁判所が同年八月二十八日になした決定及び名古屋高等裁判所昭和三十二年(ラ)第七五号抗告事件につき同裁判所がなした抗告却下の決定に基くものであるから招集手続に何ら瑕疵のあるものではない。仮に然らずとするも、右決議は被告会社の昭和三十三年三月二日の臨時株主総会において確認せられ、右確認決議は決議取消の訴の出訴期間満了により確定したので、右確認決議により本件総会の手続上の瑕疵は治癒された。又、原告の本件請求は自ら参加してなされた決議につきその無効確認乃至は取消を求めるものにしてこれは自己の非違を口実としてこれが救済を求めんとするものにして権利濫用である。当本件決議は株主の絶対過半数の賛成によるもので原告が総会の手続上の些細な瑕疵を理由にして決議の無効確認又は取消を求めるのは公序良俗に反する又被告会社は昭和三十三年三月十六日解散し、右解散決議もまた取消請求の出訴期間の満了により確定したのでもはや原告は本訴請求の利益がない。と述べ甲第一乃至第三号証の成立を認めた。

理由

原告が被告会社の株主であること、被告会社が昭和三十二年九月二十二日の臨時株主総会において別紙記載の決議をなしたことは当事者間に争のないところである。

而して株主総会の決議の内容が法令中の強行規定又は定款の規定に違反する場合にはその決議は当然無効にして商法第二百五十二条により決議無効確認の訴を提起しうべきところ原告が右決議の無効確認を求むる原因として主張するところはこれと異なり右株主総会は招集権限のないものが招集し、株主でないものが決議に参加したりというにあることが記録上明らかであり、かかる手続上の瑕疵により右臨時株主総会の決議の無効確認を訴求し得ないことは明白なところであるので原告の本位的請求は訴外鈴木幸市山岡光二の株主たる資格について審及するまでもなくすでにこの点においても失当として棄却を免れない。

よつて原告の予備的請求について審及せんに成立に争のない甲第二号証、証人大橋兵一郎の証言によれば、右臨時株主総会の招集通知書には、決議事項として第壱号議案営業報告、財産目録、貸借対照表を求むる件、第弐号議案その他附随する一切の決議事項と記載せられており、取締役、監査役の解任、選任の件については何ら記載せられていないことが認められる。而して取締役、監査役の解任選任の決議の如き重要なる決議が右第二号議案の中に含まれているものとは到底解し得られないところにして右臨時株主総会の決議は右認定の如く株主に予め通知せられていない株主及び監査役の解任並に選任をなしたる瑕疵を存する外右大橋証人の証言、原告本人訊問の結果によれば右臨時株主総会において議長たる訴外鈴木幸市が横暴を行い強いて右決議を成立せしめた著しき不公正の虞の存することが認められ、これらの瑕疵は右決議の取消の事由となることは明白なるところである。然るに被告会社の昭和三十三年三月二日の臨時株主総会において適法に右瑕疵あるさきの臨時株主総会の決議の追認せられた旨の被告の主張事実は未だこれを認むるに足るべき証拠はないけれども、弁論の全趣旨によれば被告はその後間もなく株主総会において解散の決議をなし目下その清算手続中なることを認めうべく、果して然らば右昭和三十二年九月二十二日になされた臨時株主総会の前記決議はこれを取消してみてもよつて回復すべき原告等の取締役の地位等はその存在理由を失つているので該決議の取消を求むべき利益はすでに消滅したものと謂うの外なきをもつて原告の予備的請求もまた失当としてこれを棄却し、ただ訴訟費用については叙上説示に徴し全部被告に負担せしむるを相当と認め民事訴訟法第九十条により主文のように判決する。

(裁判官 小沢三朗)

別紙

一、代表取締役、大橋兵一郎、同平山一郎、取締役石川正夫、同宇野清一、同鈴木幸市、監査役古橋保五郎、同芝田文治郎を夫れ夫れ解任する決議

二、亀田定次、古橋保五郎、鈴木幸市を取締役に山岡光二、牧一郎を監査役に夫れ夫れ選任する決議

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